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リハビリテーション学科 義肢装具学専攻

2021.9.6

パラスポーツの用具開発に力 パラアスリートを支える義肢装具士

リハビリテーション学科義肢装具学専攻の谷口公友准教授は、東京2020パラリンピック競技大会で入賞を果たした日本代表の白砂匠庸選手(男子やり投げ/上肢障害F46)、木村潤平選手(トライアスロン座位クラス/PTWC)に、競技本番やトレーニングで使用する用具を開発・提供しました。

大学生の時、アルバイト先のスキー場でパラアスリートと出会い、卒業後、東京の障害者総合スポーツセンターで働きながら義肢装具士の資格を取得。その後、大学院に進み、研究者の道へと進んだ谷口准教授に、パラアスリートへのサポートや義肢装具士の役割、やりがいなどについてお話を伺いました。

■パラスポーツとの関わりが義肢装具士への道に導く

高校生の時にテレビで見た「義手」に興味を持っていましたが、大学は、義肢装具士養成校ではなく、理工学部に進学しました。在学中に長野県白馬村のスキー場で住み込みのアルバイトを行い、そこでのパラアスリートとの出会いから「パラスポーツをサポートしたい」という気持ちが芽生え、1998年冬季の長野パラリンピックに大会ボランティアとして参加しました。大学卒業後は、東京の障害者総合スポーツセンターで働き、さまざまなパラアスリートと出会い、「谷口さんのやりたいことは、義肢装具士の仕事だ」とアドバイスを受け、その言葉をきっかけに、義肢装具士の国家資格を取得しました。

 

■義肢装具士として「研究者の道へ」

最初の5年間は、義肢製作メーカで義肢装具士としての基礎を叩き込まれました。ある日、義手ユーザーから「作ってもらった義手はすごくいい。だけど、指を動かすことができないので、なんとかならないですか?」と問いかけられました。当時の技術では、指の先が動く義手を開発するのは困難で、製作にも莫大なコストを要したことから「もっと知識・技術を高め、ユーザーの思いを叶えたい」と大学院へ進学。研究開発を学び、更に研究に力を入れたいと思い、大学教員の道を選択しました。

 

■「ユーザー目線で察する」義肢装具士に

義肢装具士はモノづくりとして、義肢装具を製作するのはもちろんのこと、ユーザーの発する「使いやすい」「使いにくい」「痛い」「緩い」などの言葉の裏に隠れている要因を評価することも大切な仕事です。ユーザーは「これくらいならいいか。問題なく使えているし…」という感覚で、要望を伝えるのを我慢する傾向があります。技術力はもちろんのこと、「なぜそう感じるのか?」を探る洞察力や相手の感情を理解する能力なども義肢装具士として重要な要素です。

 

■パラスポーツの用具開発は「二人三脚」

日常生活用の用具開発と違って、アスリートが使う用具は、結果が出やすく、義肢装具士としても作りがいがあります。「用具を使って、結果がどうであったか?」、それこそがリアルな感想であり、「常にアスリートと二人三脚で結果を追い求めて、用具開発に挑戦していくことが醍醐味」です。

 

■改良を重ねた義手は、やり投げ選手の欠かせないパーツに

白砂選手に提供したのは、トレーニング用と競技用の2種類の義手です。サポートをはじめた当初は、短距離種目を主戦場としていた白砂選手にクラウチングスタートの支えとなる疾走用の義手を製作していました。その後、やり投げに転向し、「バランスを保つことができて、指の角度を変えられる義手」というオーダーが白砂選手からあり、新しい義手の製作を開始しました。

既存の義肢装具では、指の関節を作ることが難しかったため、義手の手首から手先に関しては、3Dプリンターを使って製作しました。また、「筋力アップを図りたい」という追加の要望にも応えトレーニング用義手も製作。バーベルを持ち上げることが可能になり、筋力が格段にアップしました。それに加え、理学療法学専攻・木藤伸宏教授による体幹トレーニングで白砂選手のパフォーマンスは上昇していき、選考会で結果を出したことにより、初めてのパラリンピック代表権を獲得。8月30日の試合で6位入賞の結果を残しました。

やり投げ競技用の義手

 

 

機能性に加え見た目もこだわったトライアスロン用具

木村選手が専門とするパラトライアスロンは、スイム・バイク・ランの三種目で競い、用具をいかに使いこなせるかが重要な競技です。膝を曲げることができないため足を伸ばした状態で競技を行う必要がある木村選手には、ハンドバイク(バイク)の「足置き」と陸上競技用車椅子(ラン)の「足置き」「グローブ」を開発しました。「足置きは、上半身に力を入れるための重要な用具だ」と強い要望があり、オーダーメイドの足置きを製作しました。競技中に受ける空気抵抗なども考慮する必要があり、専門の企業にも協力を得ながら、形状の改良を重ねました。また、足置きには車の塗料を取り入れて、見た目にもこだわった用具で世界と戦って欲しいという気持ちを込めました。木村選手は、東京パラリンピックで、前回大会10位を上回る6位入賞を果たしました。

ハンドバイクの足置き

 

陸上競技用車椅子のグローブ

 

■「ユーザーとシンクロする瞬間」がやりがいに

製作した用具がユーザーにピタッと合って、「私とユーザーの持つ感覚がシンクロする瞬間」があるのですが、それを感じ取れた時はものすごく嬉しく、「製作して良かった」という気持ちになります。その用具でユーザーが競技をしたり、日常生活を送ったりしますが、最終的には「装着している本人が義肢装具のことを忘れてしまうような瞬間を目指したい」と思っています。「自分は障害を抱えているわけではない」と感じてもらえるような義肢装具を提供することが、使命であり、それを実現できた時には、義肢装具士としてのやりがいを感じます。

 

■今後の目標は「専門外の分野のスキルアップ」と「パラスポーツの普及」

CADをマスターし、そのスキルを義肢装具の設計に生かしたいと思っています。そのほか、今は企業に協力してもらっている風洞実験にも興味があり、専門外の分野を専門家に任せきりにするのではなく、仕組みや原理を自分自身でも理解できるように日々スキルアップすることが目標です。

また、「世界大会に出場するようなパラアスリートだけでなく、一般の障害者にも気軽にパラスポーツができるような用具を開発し、障害者にとってスポーツが身近な存在であるような環境づくりにも貢献したい」と考えています。今後もパラスポーツに関りながら義肢装具士として更なるレベルアップを目指します。

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